第七幕 火の鳥の祠と五龍の終焉
──すべての魂が、舞と魔法に還るとき
炎幽玄艶舞劇場の中心、火の鳥の祠では、五つの宝珠が羅針盤を囲むように光を放っていた。
赫炎珠、蒼涙珠、黎陽珠、艶舞珠、そして──
祈りの舞によって最後の位置へと導かれる、第五の宝珠が浮かび上がろうとしていた。
艶と“あの男”は静かに並び立ち、ただ目を閉じる。
ふたりの間に、言葉ではない“共鳴”が生まれていた。
「私の舞は……もう、私だけのものじゃない」
艶が呟くように言った。
「君の魔法も……誰かを守るために、在るんだろう?」
男が静かに応えた。
ふたりの心に、かつて失ったはずの“光”が差し込む。
そして羅針盤が、すべての宝珠を包み込むように回転を始めた。

──その瞬間、異世界全体が脈打ち、空間がねじれる。
闇の中から現れたのは、巨大な黒翼の影──
闇の精霊・ノワール。
「よくもここまで辿り着いたな……だが、もう遅い」
ノワールの声は、すべての光を喰らうように空間を覆い、
五つの柱が闇に飲まれてゆく。
五つの柱が闇に飲まれてゆく。
「火の鳥の再誕? フフ、それは“世界の崩壊”を意味する。
光も炎も、やがて焼き尽きる……。それが定めだ」
艶は前に出た。
「……それでも、私は踊る。
あなたの中の痛みも、後悔も、赦したい」
男もまた、杖を構えた。
「そして俺は、“覚醒し続ける”魔法で、お前の闇を断ち切る」
──祈りと魔法が、交差した。
艶が舞う。男が詠唱する。
ふたりの鼓動は、まるで一つの旋律となり、
劇場の中心に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
ノワールが叫ぶ。
「やめろ! その力は、私を……!」
だがその叫びは、ふたりの光に飲み込まれていく。
そして──
羅針盤がひときわ強く輝き、
その中央から、かつて失われたはずの存在が姿を現した。
──火の鳥(フェニクス)。
その姿は、黄金の羽根を広げ、世界の空を包むように飛翔する。
「ありがとう、ふたりとも……
この劇場は、祈りの灯を宿す者によって、何度でも再生される」
火の鳥の声が、ふたりの胸に響いた。
「さあ、世界に残された“闇”を、五龍を鎮める時だ」
──空が裂けた。
現れたのは、かつて世界を滅ぼしかけた“五龍”。
怒り・悲嘆・絶望・暴欲・虚無──
それぞれが、空と大地に巨大な影を落とす。
しかし、火の鳥が天に舞い、五つの宝珠が五龍の頭上に光を灯すと、
ふたりの身体に、劇場のすべての“気配”が流れ込んだ。
艶の踊りが、空に広がる。
男の魔法が、大地に刻まれる。
光と闇、感情と意志、そして“人の祈り”──
すべてを融合した“最終の魔舞(さいしゅうのまい)”が始まった。
五龍は次第にその身を溶かし、
やがて静かに、劇場の地下へと還っていく。
──静寂。
羅針盤は、ゆっくりと炎の中で燃え尽き、
五つの宝珠は祈りの結晶として、世界の大地に散っていった。
火の鳥は、ふたりに微笑んだ。
「再び、誰かが“願い”を忘れかけた時、
この劇場は目を覚ますだろう。
その時もまた、“舞い、祈り、手を取り合う”魂がここに集うのだから」
光の中で、艶と男はただ、互いを見つめていた。
──ここが、すべての終わりであり、始まり。
そして火の鳥は空へ舞い上がり、炎幽玄艶舞劇場に静かなる幕を下ろした。